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コラム7:寄生と共生

 寄生・共生関係は、特に密接な関係であればあるほどお互いに特化した形質を持つ必要があります。その結果としてパートナーに対する特殊化が進み、新しい種が誕生するため、生物同士の寄生・共生関係は生物多様性を生み出す原動力であると考えられています。つまり、サンゴ礁域の生物多様性の高さは、生物同士が織りなす寄生・共生関係の多様さの映し鏡とも言えるわけです。

例えば魚の体表に目を向けてみますと、ダンゴムシのような生き物や、くるくる巻いたコイルやリボンのようなものなどがひっついていることがしばしばあります。ダンゴムシのような生き物はウオノエと呼ばれる寄生虫で、魚の口の中にしばしば寄生して魚の餌になっているように見えることから名付けられました。しかし実際に餌にされているのは魚の方で、ウオノエは寄生した魚の体液をすすり取りいます。そして一見生き物には見えないコイルやリボンのようなものも実は寄生虫で、カイアシ類という甲殻類の仲間です。その形は到底甲殻類には見えませんが、外からよく見えるコイル状の構造は卵嚢で、体の本体はしっかりと魚の体表にひっついています。そして小さすぎて肉眼ではなかなかわかりませんが、ウミクワガタやヒルの仲間など、実に多様な寄生虫がいます。そこで魚たちは「掃除魚」と呼ばれる寄生虫を餌とするホンソメワケベラなどが構える掃除場所に出向き、寄生虫を食べてもらいます。これは、掃除魚にとっても寄生された魚にとってもメリットがある共生関係の代表例です。

サンゴ礁域の共生関係は、他にも変わったものがたくさんあります。有名なものとしてはイソギンチャクとクマノミ、ハゼとテッポウエビなどがありますが、彼らの説明は他でもよくされていますので、ここではもう少しマイナーな生き物たちの共生関係に目を向けてみましょう。例えば、スツボサンゴやムシノスチョウジガイという単体性のサンゴには必ず穴が空いていて、ホシムシや細長いヤドカリが住んでいます。この不思議な共同生活は、ホシムシやヤドカリは体を隠す住処を得る一方で、サンゴにとっては不慮の事故でひっくり返ってしまっても元に戻ることができ、また巻き上げられた砂に覆い尽くされる心配がないというメリットがあります。似たような共生系としては海綿と海綿をヘルメットのようにすっぽりと被って身を守るカイカムリというカニの関係があります。スツボサンゴやムシノスチョウジガイと同様に動けない海綿にとって、カイカムリの移動能力は非常に大きなメリットとなります。

 

ミナミシカツノ(ウミクワガタ類)

写真:太田悠造

 

また肉眼ではわかりませんが、微生物との共生は、サンゴ礁生態系でも一般的に見られます。その代表が、サンゴと褐虫藻の共生関係です。サンゴが住処を提供する代わりに褐虫藻は光合成産物をサンゴに提供するという関係ですが、実はこういった光合成産物を介した共生関係は浅い海では一般的に見られます。たとえばサンゴ礁域で一般的に見られるシャコガイは、生きているときは非常に美しい色合いの外套膜と呼ばれる外に露出した膜部分に、サンゴと同様に褐虫藻を共生させています。シャコガイのように目立つ存在ではありませんが、サンゴ礫に住むカワラガイやリュウキュウアオイなどの二枚貝も、シャコガイと同様に外套膜に褐虫藻を共生させ、その光合成産物を受け取っています。また、褐虫藻ではなく他の光合成生物と共生関係を結ぶものもあります。その代表が海綿動物で、シアノバクテリアと呼ばれる単細胞生物と共生している種が多くいます。サンゴの上を覆い尽くして殺してしまうことで問題となっているテルピオス属の海綿も、シアノバクテリアと共生しているため、早く成長することができると考えられています。

 

参考文献

星野修、齋藤暢宏(2016)海の寄生・共生生物図鑑 築地書館

山城秀之(2016) サンゴ 知られざる世界 成山堂書店

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