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コラム8:サンゴ礁に暮らす生物

 海の生態系において陸の生態系と大きく異なる点は、水中を漂うプランクトンなどの有機物をこしとって食べるろ過食生の固着生物が非常に多いという点です。二枚貝や海綿動物などはその代表で、こういった生物たちは一度住む場所を決めてしまえば基本的にはその場所から移動せずに一生を終えます。そのため、ろ過食者たちは水中の有機物を海底に引きずりこむことで、水中の生態系と海底の生態系をつなぐ役割を果たしています。

 

 サンゴ礁生態系においても、ろ過食者の存在は非常に重要です。第一にサンゴ自身も、褐虫藻からもらいうける栄養だけでなく自ら触手を伸ばして水中のプランクトンを捉えて食べるろ過食者です。そしてサンゴの上に住む生き物たちの中にも、多くのろ過食者が潜んでいます。例えば、ハマサンゴの表面に不自然な1.5cmほどの丸い穴が空いているのを見たことがある人は多いのではないでしょうか。あの穴の正体は、フタモチヘビガイという巻貝の住処です。巻貝といっても規則的に巻いた殻を持っているわけではなく、サンゴの中に埋没していて外からは見えませんが名前の通りまるでヘビのようにクネクネと不規則に巻いた殻を作ります。多くの巻貝は歯舌というヤスリのような口器を持っていて、藻類や他の生き物を削り取って食べますが、フタモチヘビガイはハマサンゴの上に粘液のネットを作って、そのネットにかかった有機物を食べています。そのため、フタモチヘビガイの穴の周辺には白く濁った半透明の粘液ネットが張り巡らされているのを観察することができます。

 

 また、サンゴ礁の景観に彩りを添えるハマサンゴの上のイバラカンザシもろ過食者です。あの色鮮やかなツリーのような構造はイバラカンザシの鰓冠と呼ばれる構造で、名前の通りエラとしての働くと同時に、表面の繊毛で水中の有機物を捉えているのです。また、イバラカンザシが死んだ後も、イバラカンザシの本体が入っていた穴(棲管)は残ります。残された棲管は外敵から守られた安全な住まいですので、他の生物の絶好の住処になります。中でも面白いのは、カンザシヤドカリです。ヤドカリは普通は巻貝の殻を住まいとするので、貝殻の巻きに合わせてお腹もクルンと巻いているのですが、カンザシヤドカリの場合はイバラカンザシの棲管の形に合うまっすぐなお腹をしています。そうやって家主不在のイバラカンザシの棲管にぴったりはまり込んだカンザシヤドカリは頭だけを外に出し、細かい毛がびっしりと生えた触覚を振り回してそこに付着した水中の有機物を食べます。

 

イバラカンザシ(中央)と

   フタモチヘビガイ(左)

クモヒトデ類

 

 他にも、生物が死んだ後に残された構造を利用する生物はサンゴ礁にはたくさんいます。たとえばクモヒトデの仲間は、死んだサンゴのポリプの入っていた穴にすっぽりはまり込んで、気持ちよさそうに腕を水中にたゆたわせていることがあります。クモヒトデは生きているサンゴにも絡みついていることもあり、地味でありながらサンゴ礁では実は一般的に見られる生き物の一つです。

 

 このように、サンゴ礁では生物が作り出した構造や生物自身の体表などにまた別の生物が住み込むという関係が鎖のように繋がっていくことが一般的に見られます。これは「棲み込み連鎖」と呼ばれ、サンゴ礁の生物多様性を生み出す原動力となっています。そしてその背景には、海には水中の有機物を採って食べるろ過食者が多いため、「家主」となる生物の体の一部などを直接食べるわけではないので多種の共存がうまくいきやすいということがあります。

 

 

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